僕と吃音との距離。⑥
それからしばらくして、少しずつ中学生活に慣れていった。
いつも通り、音読なんかは辛いし、からかわれるしで、大変だったが、何とか乗り越えることができた。
純粋に学校が楽しくなってきたのだ。
部活、授業などにやりがいを感じ、通い始めた塾にも慣れてきて、精神が安定してきた。
中学校。
年頃の男子のほとんどに起こるイベント。
声変わり。
もちろん小学生からもうおじさんのような声になった人も少なくないのだが、一般的にはこの時期だろう。
でも僕には声変わりが無かった。
正確には「していたがその声を出せなかった。」だ。
僕には中学まで、声へのコンプレックスを抱えていた。
それは吃音だけでは無かった。
普通、話す時にはみんな、地声で話す。
もちろん話しやすいし、それ以外で話すメリットなどないから。
僕も小学校まで、地声で話していたつもりだった。
声の違和感を感じていたのは、小学校高学年くらいの時期だった。
どうやら僕は裏声で喋っていたらしい。
何を言っているのか分からない人も多いと思うが、こう説明するしかない。
つまり、僕は「地声だと間違えて使っていた」ということになる。
そのおかげでとっくに声変わりをしているであろう地声は、使えないでいた。
いつもの話し方じゃ地声は出ないし、出すのも難しかった。
そして何より、全く使っていなかった地声は、話慣れておらず、とてもガラガラして話しにくかった。
いきなり低くなることに対して、からかう目線があったことにも影響されていた。
だからそのまま裏声を使って話すしか無かった。
こうして、中学生活の間、「吃音」と「裏声」という、2つの声のコンプレックスを抱えて生きていくことになった。
色んなことが辛かった。
裏声は、あまり声量が出せない。
だから部活なんかでの声は小さくなってしまう。
他人の声にかき消される僕の声は、本人から見ても、ずいぶんとか細く、惨めな印象があった。
それでも、何とか頑張っていた。
慣れてきた塾が大変になり始めた頃、少しずつ塾が、嫌になってくる経験をした。
𓃬続く𓃬